かつては王侯貴族や聖職者が権力を持ち、現在は資本家が権力を持っている。では次の時代に権力者となるのは誰か?

世界史

序文

本記事ではこれまでの世界の権力史にまで言及すると非常に膨大なページとなってしまうため、それは別の機会に譲るとして、現在は莫大な富を持つ資本家が政治や経済あらゆる面で権力を持っているが、それ以前の中世社会では王侯貴族や聖職者が権力を持っており、すなわち血族と宗教がピラミッド型階級構造の頂点に君臨していたという前提に基づき、それでは今後の未来は誰が権力を持つことになるのかという点について検討していきたい。

仮説①:テクノロジー企業

近年ではグーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、テスラ、エヌビディア、いわゆるマグニフィセントセブンと呼ばれる米国のテクノロジー系の大企業がそれら数社だけでS&P500の約半分近くの時価総額に至るほどになってきている。これらビッグテックは膨大な量の「ユーザーデータ」を蓄積しており、市民の消費行動や購買欲求、何が欲しくて何が要らないのかなどあらゆるデータを握っている。そしてそれに基づき「こういう行動の次にはこういう行動をする」などの分析を行ない、アルゴリズムを用いて自動的に消費行動を促してくる。

これら企業群はAIやブロックチェーン、量子コンピューティングなどの研究にも巨額を投資しており、さらに加速度的に力を増していく可能性が高い。言うまでもなく、これら「AI」や「ビッグデータ」を用いて分析できるということは経済のみならず政治においても使うことのできる技術だ。すなわちテック系企業の経営者が自ら政治を動かしていくこともすでに可能であり、実際に第2次トランプ政権下では、選挙中から莫大な富を用いてドナルド・トランプをバックアップしてきたイーロン・マスクが、ホワイトハウスに出入りして連邦予算の削減を目指す政府効率化省(DOGE)なる政府機関を指揮している。

仮説②:資本主義の見直し

現在のように一部の大企業と富裕層だけに過剰に富が集中し、庶民は生活が苦しい状況となっている場合、歴史的にはたびたび「革命」、すなわち市民が権力者を打倒する動きが起きてきた。社会不安と政治不満により、民衆から「共産主義的資本主義」を望む行動が起き、企業に「富の社会還元」を求める運動が活発化するかもしれない。

あるいはベーシックインカムの導入により貧富の格差の緩和、または法人税や金融所得など富裕層にダメージを与える課税制度を望む声が増えてくれば、政府も検討せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。要するに、資本主義から社会主義に近づいていくムーブメントだ。社会主義はソ連やキューバなどほとんど失敗例しかないが、マルクスが『資本論』を書いた時期の経済状況と現代は比較的近い状態になっている点は頭の片隅に入れておく必要があり、得てして歴史は繰り返しがちである。

仮説③:国家主義から地域主義へ

地方の過疎化はさらに加速化し、東京や大阪などの都市圏にますます人口が集中しているが、これは日本のみならず世界的にも起きている現象だ。すなわちあらゆる産業の中心地が一箇所、あるいは数箇所に偏りすぎている。100年前のように人口が少ない時代なら問題はなかったが、産業革命以後に人口が激増した現在では一極集中の人口過密は犯罪率の増加や貧富の格差拡大など深刻な問題となり得る。これを解消するためには地方にも公共サービスや企業の拠点を分散させる必要があるだろう。そうなった場合、アメリカで言えば大統領と州知事がほとんど同等の権力を持つような構造になる可能性がある。

仮説④:エネルギー企業

もし気候変動や環境問題が急速に深刻化した場合はエネルギー分野、すなわちグリーンエネルギーに注目が集まるかもしれない。原油の埋蔵量という立地的幸運のみでオイルマネーにより台頭した中東各国だったが、今後は大気汚染対策やサステナブルな経済を目指してシフトしていき、各国が石油・石炭・天然ガスなどの有限資源による伝統エネルギーに依存する動きが停滞して、半永久的に生み出せる新エネルギーの技術が世界を席巻していくかもしれない。もしそうなったときは現在のビッグテック(産業資本家)のような立ち位置となって莫大な富を握っているのは環境配慮を成し遂げたエネルギー系の企業だろう。

仮説⑤:進歩的民主主義と市民参加

ブロックチェーン技術や電子投票システムを利用した「分散型民主主義」が普及していく可能性もあるだろう。市民が直接的に政治に関与できる可能性だ。つまり、現時点では投票で国民の意見が反映されるのは「選挙で候補者から選ぶ」ということのみだが、そもそも忙しいなかをわざわざ投票所に赴いてまで投票したいほどの候補者がいない場合のが多いのではないか。投票した政治家が掲げていた公約を実行しない、あるいは選挙戦のときだけ善人顔をして裏では悪事に手を染めているなど枚挙にいとまがない。すなわちいくら「投票に行け」と言われたところで、投票に行っても所詮は議席数争いの頭数合わせでしかないのが現状だ。

これは希望的観測だが、今後は選挙戦だけでなく政策決定などにも投票システムが導入され、政治家や官僚だけで政治を動かすのではなく、国民の意見が反映されやすい状況になっていくかもしれない。そのためにはやはりセキュリティ面の強化(昨今でも北朝鮮による暗号資産取引所のハッキング行為などハッカーの技術はますます高まる一方で、セキュリティの強化が追いついていない)や老若男女誰でもスムーズかつ安全に使えるサービスを作り出す必要があり、さらには誰かに強要されて投票させられるということがない仕組み作りもしていかねばならない。マイナンバーアプリの安っぽさからも分かるとおり、日本(の高齢化した政界)はこういった技術において後進国となっているため、今のところ実現可能性は低いだろう。

まとめ

19世紀以降は金融業で成功したロスチャイルド家やロックフェラー家など財閥系の一族が政界と経済界に裏で幅を利かせていると言われている。しかしながら、オーストリア=ハンガリー帝国のハプスブルク家もロシアのロマノフ家もドイツのヴュルテンベルク家もホーエンツォレルン家もフランスのブルボン家もトルコのオスマン家もイタリアのサヴォイア家も結局は失墜した。日本にも三菱・住友・三井・安田という四大財閥が全盛を極めていた時代がかつてあったが、戦後GHQが解体させ、今では名前こそ残っていても政治に口先介入できるほどの権力はもう無くなっている。ロスチャイルドとロックフェラーの天下も永遠ではないのだ。