日向坂46四期生の映画『ゼンブ・オブ・トーキョー』が想像以上に良かったのでちょっと感想を【ネタバレあり】

46シリーズ

日向坂46の4期生が全員出演する映画『ゼンブ・オブ・トーキョー』を観た。これが想像以上に期待を上回ってきた青春映画の佳作だったので紹介しておきたい。

長野県の高校生が東京へ修学旅行に行くシンプルなストーリーなのだが、そこから見事に卒業式へと繋げて青春の一瞬を切り取り、約90分のなかに実に無駄なく物語が詰め込まれている。余計なものを徹底的に削ぎ落とした美学。修学旅行に行く前の彼女たちの関係性はあえてほとんど描かれておらず、ポジティブな物語なのに青春の儚さと4期生の今が重なり不思議と泣けるエモさがある。

高校生が修学旅行に行くのは2年生の半ば~後半ぐらいの時期であり、日向坂46に加入してからちょうど2年ほど経った頃の4期生がそのタイミングで撮ったということが重要であろう。1年目ではお互いをまだよく知らない。3年目では知りすぎている。早くても遅くてもダメで、実際の高校2年生の関係性に近い出会って2年のこのタイミング、この関係性でこそフィクションにもリアリティが生まれる。

女子校ではなく共学の設定だが、八嶋智人演じる担任の日沼健二(ひぬけん)、藤嶌と竹内が狙っている守谷くん以外の男性キャラはバスの車内や校舎内に存在はしているがモブである(漫画であれば顔まで描かれない扱い)。そもそも4期生の11人以外に役名があるキャラクターは前述の担任と男子生徒の守谷くん、守谷くんが告白する女子生徒、真飛聖演じる女性タクシー運転手、渡辺莉奈演じる智紗が憧れているアイドルの有川凛(小坂菜緒)だけで、ましてやそれらも出演時間はわずかであり、ほとんどのシーンを4期生メンバーのみで進行していく。

卒業式直前の教室。物語は正源司陽子のモノローグから始まる。

たとえば、目の前にたくさんのお菓子があったとして、その全部を味わいたいと思うのは、欲張りだろうか。
でも、もしそのお菓子が、次の日にはすべて消えてしまうとしたら?
二度と同じものを食べることができないとしたら?
全部を味わいたいと思う私を、それでも人は欲張りだと笑うだろうか。
─池園優里香(正源司陽子)

たわむれる生徒たちのなか、窓際の席に1人座っている正源司はおもむろにベッドホンを着け、スマホをタップする。本作の主題歌であるConton Candyの「急行券とリズム」が流れる。このヘッドホンは劇中の渡辺莉奈が首にかけているのと同じものなので、手渡すシーンは描かれていないが、おそらく譲り受けたものだろう。ちなみに使用されているのはSONYのWH-CH520のベージュカラーだ。

ちなみに「急行券とリズム」のMVで正源司陽子が着用しているのは、ASHIDAVOXのST-90-05-Kだとされている。

正源司陽子は本作の主人公であり、班長として修学旅行で巡るコースなどを綿密に計画を立てて予定表を作り、行きのバスの車内で同じ班の渡辺莉奈、藤嶌果歩、小西夏菜実、石塚瑶季に手渡す。午前中はその予定通りに動いていたが、昼食時になり予定していた店が混んでいたため、正源司は第2候補のラーメン屋や第3候補のハンバーグ屋に行こうとするが、石塚や藤嶌が「その食べ物の気分じゃない」と言い始め、石塚の提案により別々にお昼を食べに行くことにして、食べ終わってからスカイツリーの近くの橋で落ち合うことにする。しかし、予定の時間になってもなぜかみんな待ち合わせ場所にやって来ない。実はみんなそれぞれ目的を秘めて東京へ来ていたのだ。

何より配役がメンバーに合っていて面白い。正源司はみんなで思い出を作ることへのワクワク感を隠せない天真爛漫な可愛さ。加藤史帆がよく言っていた正源司の”主人公感”を堪能できる。一緒に行動する予定だったみんながいなくなってしまい、予定のコースを1人で巡ることになるが、独り言をぼそぼそ呟きながら歩くその姿に哀愁が漂い、デビュー前の合宿でノーメイクの正源司が「中学の時に自分の素を出しすぎて嫌われたことがあるから自分の意見を言うのが怖い」と泣きながら語っていた頃の孤独感を彷彿とさせ、その後にみんなと再び合流することで救われるというのが現在へとリンクしており感慨深い。

渡辺莉奈は内向的な女の子という設定で、小坂菜緒演じる有川凛というアイドルに憧れており、チェキのサイン会で小坂に直接「智紗ちゃんは”こっち側”に来る人だと思う」と言われたことで自分もアイドルになりたいと思っている。しかし家族には言いづらいので、ちょうど修学旅行の日程がアイドルオーディションと重なっていたことでこのチャンスしかないと思い、みんなと同様に抜け駆けしてオーディションを受けに行く。実際、渡辺は小坂に憧れて日向坂46のオーディションを受けたと語っているので事実に寄せた設定だ。

オーディション用の写真を現地で急遽撮っていた際に休憩中のタクシー運転手の女性とゴタゴタがあり、謝りに来た担任にお守り代わりに入れていた小坂のチェキごとスマホを没収されてしまい、オーディションを受ける勇気が無くなる。そこへやってきた正源司たちの協力で何とかスマホを取り返して急いでオーディション会場へ戻ったものの、残念ながら時間に間に合わず受けられなかった。

だがその後にオーディションを受けられたのか、アイドルになる夢を叶えて卒業式にはいない描写が終盤で描かれている。4期生ではいつもなら正源司と藤嶌という並びが定番だが、この映画におけるクレジットは主演の正源司の次に渡辺の名前が来ており、2番手としての役割を任せられているのも注目。みんなが明るいキャラクターのなか、1人だけおとなしい性格となっており意図的に対比的な構図となっている。そしてアイドルになって内気な殻を破ったのだろうと想像させるため、ステージで踊っているシーンなどはわざと見せない巧みな脚本である。

守谷くんに恋する藤嶌果歩竹内希来里の微笑ましい口論。この2人は天性のものなのか演技が上手くて安心して観ていられる。単独行動している守谷くんをバレないように追いかけ続ける2人。勇気を出して声をかけようとした矢先、守谷くんのもとへ1人の女子生徒がやってくる。そして守谷くんはその女子生徒に告白し、カップル誕生。藤嶌と竹内は一気に冷めてもんじゃ焼きをやけ食いしに行く。ここで藤嶌か竹内のどちらかが守谷くんと上手くいくようなゲスい展開にしなかったおかげで、オタクが動揺なく観られる良質なアイドル映画となった。

東京出身設定の小西夏菜実をシティガールだと思って憧れ、ついてまわる田舎っぽい平尾帆夏。あえての演出なのか普通に下手なのかわからないが、平尾の慢性鼻炎っぽい声質と棒読み感のある演技が芋くささをいい感じで表現できており、不思議と絶妙な味を醸し出している。途中、小西の東京時代の友達という設定の平岡海月と遭遇し、一緒に行動することになる。平岡は11人のうち唯一他校の生徒という設定だ。小西は無理して下北沢のカフェに行くが、実はオシャレぶっているだけで東京にいた頃は今の平尾よりも芋っぽいアニメオタクだったことが発覚する。高校デビューだったことを平尾に正直に打ち明け、本当に行きたかった池袋などのアニオタの聖地を巡っていく。

石塚瑶季は「ぽぽまるず」というよくわからないゆるキャラを推しており、清水理央宮地すみれ山下葉留花と東京でしか手に入らない限定グッズのTシャツを手に入れるために動く。それぞれ手分けして各地の販売会場へ向かうが、清水は無事に列に並べたが整理券配布が目の前で終わってしまい、宮地は通称”ダンジョン”とも呼ばれる新宿駅で迷子になり、山下は整理券を手に入れたものの待っている間に無くしてしまい、石塚だけがチャンスを得る。しかし石塚の会場はクレーンゲームで取るシステムであり、偶然そこへ来た小西と平尾と平岡も協力して挑戦したが取れなかった。ところが新宿駅で迷っていた宮地のところへ清水と山下と正源司が合流して会場へ辿り着いており、そこだけ在庫が豊富にあったのか普通に買えて何とか4枚ゲットに成功する。

個人的に今回特に光っていたと思うのは、竹内と平尾だ。この2人の存在が作中でマイルドなアクセントとして機能している。正源司や藤嶌は舞台『五等分の花嫁』でも非常に良かったので上手い役者なのはもともと知っていたが、竹内の藤嶌に対するキレりんちょ感と平尾の小西に対する子分感がたまらなく愛おしいキャラクターとなっている。石塚の演技もナチュラルでやんちゃな感じが出ており、作品を一層明るいものにしている。

平岡、清水、宮地、山下はそれぞれ”らしい”感じの役柄だ。しっかり者っぽいのにたまにポンコツな平岡、清水の姉御感、宮地のゆるふわ感、山下のおっちょこちょい感。やはり日向坂46の4期生はそれぞれキャラが立っており、繰り返すがこの作品は配役が絶妙だったと言える。

バラバラに行動していたみんなが最終的に渡辺のために結束してチームプレーを果たすが、時間に間に合わずオーディションを受けられなかったというシナリオも良い。むしろこのオーディションが受けられなかったことで、人生はそんな都合よく予定調和にはならないという教訓を提示している点も特筆に値する。そして冒頭でも書いたように、明るくてポップな映画なのに最後には青春の儚さになぜかちょっと泣けるのだ。

Blu-rayやDVDの他に、アマプラやU-NEXTなど各種映像配信サブスクサービスにおいても、見放題にはなっていないが有料レンタルという形ですでに配信開始されている。青春映画としてよく出来ており、日向坂46のファンでなくても老若男女、家族でも楽しめる内容なので是非観てみていただきたい。